こんばんは、整骨院自費成功アカデミー主宰の松村です。
以前から、腰痛の痛みは脳が原因であるという論調が出てきております。
最近はテレビでもそういう内容を紹介することが増えました。
実際、腰下肢痛の人とそうでない人200人ずつくらいを画像検査したところ、両群で同じ割合くらいで画像上の異常が見られたという論文や、一卵性双生児での研究論文もあり、画像所見上の異常が痛みの原因ではないこともあるということは証明されつつあります。
ただ、これらの論文ばかりを取り上げ、なおかつ社会心理的要因(イエローフラッグ)に着目し、なんでもかんでも痛みの原因は脳であるとし、「認知行動療法だ〜」と、短絡的に結論付けるのはいかがなものか。
そう思って今回は書きます。
ただ、事実としてイエローフラッグが原因の痛みも存在することは私も承知しています。
過去にもそういう症例と遭遇し、問診の際に涙まで流され、ただそれだけで腰痛がなくなったということも経験しました。
ただ、そういう症例を知っているからこそ、なんでもかんでも痛みの原因を脳「だけ」に持ってくることは、治療家にとって非常に危険だと思うのです。
認知行動療法ならまだエビデンスもあるかもしれませんが、最近はアドラー心理学が流行っています。
アドラー心理学が優れている、劣っているという意味ではなく、もし腰痛を含めた「痛み」を語るときにエビデンスがどうじゃらこうじゃらと言うのなら、アドラー心理学にエビデンスがないということを知っておかなければならないでしょう。
まさか「臨床と研究は違う」とか言いませんよね?それなら、痛みに関しても同じ論理になりますからね。
では始めます。
INDEX
痛みとはなにか?
これに関しては、国際疼痛学会の痛みの定義を引用させていただきます。
「実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験」
です。
確かに、我々が習ったのは受容器が侵害刺激に反応して信号を脳に送るってことですので、組織損傷の際に痛みが出るのは理解しやすいところです。
それより後の、
「組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験」
というところが面白いところです。
要するに、傷めたときと同じようなシチュエーションになった際に、本当は痛くない(組織損傷なない)けど痛く感じるってことがあるということです。
私が徒手検査をなるべくしない理由はこれです。
膝のMCL損傷の際にべーラーテストされたらキレそうになります。
内側の半月板かMCLかなんて、触診でそこそこ判別できるはずで、できないなら勉強し直せよって話ですから。
この
「組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験」
ってところに着目して、脳がどうこうという論理なわけです。
(扁桃体、側座核とかそのあたりのことですが長くなるのでここでは書きません)
「痛み→脳」だけでない根拠①
「痛み→脳」の論理を展開する場合、多いのが腰痛なので、実際に2016年に発表された論文を用いてみます。
エビデンス的なことを書いておかないと、なんでもかんでも「私見だ!」で済まされてしまうので。
原因が特定できない、非特異的腰痛は21.9%。
そのうち、0.3%がイエローフラッグです。
画像所見上の異常がわかったのが26.8%となっております。
画像だけで判断せず、丁寧に診察、検査をすることで原因がわかった腰痛が51.3%。
これ、別に私が言ってる「私見」ではありません。
山口大学だったかな?の論文です。
画像所見に異常がない、73.2%の腰痛を全て「脳が原因です〜」「安静はダメ〜」「あなたの腰は悪くない〜」なんて言ってしまうということは、科学的な数字からすると、画像所見に異常がない234例中164例はハズレということになります。
その正解率は3割以下です。
こわっ!
「この治療法で腰痛が治る確率はなんと30%以下!」
だれがそんな治療法勉強すんねんってなりますね。
「痛み→脳」だけでない根拠②
さて、次は思いっきり私見を書きますね。
私は、19歳でこの業界に入り現在42歳。
すでに23年この業界にいます。
マッサージしかできない頃から数えると、今まで触らせていただいた患者さんののべ人数は15万人くらいになります。
アカデミー会員のベテラン先生の中には、だいたいの平均値で少なめに計算してすでに50万人の経験がある先生もおられます。
50万人って、私の院がある西宮市の人口ですよ。ほんと凄い。
私が高校生の頃に開業されているので、もしかすると私は弟子入りしてたかもしれないベテラン先生です。
アカデミーでは毎月の勉強会終了後に有志で飲みに行くことが多いのですが、まあだいたい治療のお話になります。
「痛みの原因はちゃんと存在すること多いよね」
って話になります。
症例論文は、エビデンスレベルとしては低い。
でも、15万人分の症例でも低いですかね?
50万人分の症例でも低いですかね?
確率を出すときは、その分母が大きいほうが精度が高いはず。
膨大な経験値がすべてウソであるというのは暴論すぎやしませんかね?
腰痛にしても、本当に腰痛の8割に原因が存在しなかったとして、それを治療する際に心理学的アプローチが唯一無二的に良いものであるのなら、古くから伝わる整体技術、東洋医学などはなぜ淘汰されなかったのでしょうか?
催眠療法的なものもすでに存在しているので、損傷モデル以外の痛みがすべて「痛み→脳」であるならば、催眠療法的なものが整体技術や鍼灸やカイロなどを淘汰しているはずでなないかと思うのですがどうでしょうか。
というか、なんでもかんでもそれに持っていく論調の人が我々と同じように鍼灸師や柔整師なのであれば、それは勉強不足、技術研鑽不足です。
もしかしたら、自身が治せないことから逃避しているのでしょうか?
ちなみに、私が師事している整体の先生は、
「ヘルニアとか関係ない」
「脊柱管狭窄症も関係ない」
と言われます。
私が、「最近それって科学的に証明されつつありますよ」とお伝えさせていただくと、「ようやくおいついてきたね」と仰っていました。
整体の先生は数十年の経験から、よくわかっておられるのです。
その精度はナメてはいけません。
痛みのほとんどには、ちゃんと原因が存在する!
損傷モデル以外で人はなぜ痛みを感じるのでしょうか?
もちろん、科学的根拠は一切ないことを書いていきます。
まず初めに、痛みが出るという現象を、いわゆる画像所見で判別できるほどの損傷モデルと、そうでないモデルだけに分類することがすでに暴力的だと思います。
本来はそのカテゴライズに集約していくのですが、短絡的に分類するという行為が暴力的なのです。
私が痛みの原因を考えるときにどう思考するか?
まず器質的な異常(損傷を含めた)なのか、機能的な異常(ROMや筋力、動作等)なのか、それ以外なのかを考えます。
それは、なぜ「いわゆる画像所見で判別できるほどの損傷モデル」と表現したかにもつながります。
このあたりは後述します。
それら、治療的観点による評価と平行して行うのが、患者さんの価値観を知ること。
「痛い」って言葉、幅広すぎますよね。
痺れを「痛い」と表現する人もいれば、「痛くはないけど痺れてる」と言う人もいます。
ストレッチしたときの伸びる感覚を「痛い」と表現する人もいれば、過去に「熱い」と表現する人もいました。
そもそも疼痛閾値が高い人もいれば、低い人もいます。
そして、神経質で痛みを勝手に増幅する人や、痛みがある環境に依存している人もいます。
患者さんそれぞれにとっての「痛い」とは何かを探っていくために問診をするわけです。
私の個人的な感覚を言語化するなら、患者さんの症状を入り口に、患者さんに潜っていくという感じ。
どこまで深く潜るか、そしてどのあたりまで潜って戻ってくるか、このあたりのさじ加減もあるのですが、テーマが問診ではないのでこのあたりはこれ以上書きませんが、ここで重要なことはコミュニケーション能力になります。
そして、熟練した、ベテランの先生ほどここが上手だから、同じ技術を使っても結果に差が出るところでもあります。
さてさて、ではなぜ痛みが出るのでしょう。
あえて脳的なことを抜きにして考察してみましょう。
例えば、右の腰から臀部、大腿外側部あたりまで痛むという場合。
よくある症例ですよね。
原因は腰にない場合が多いのですが、患者さんの中には「腰痛」と表現する人もいます。
この症状の原因は一律ではなく患者さんによって変わってきますので、今回はその中の一例だけを。
例えば何かが原因で、常に右股関節が外旋位だったとします。
荷重足は左足。
足を組むのはいつも右足が上。
靴を見ると右の踵の外側のほうが左と比較してもすり減っている。
かなり簡略化して書きますが、こういう患者さんの場合は、歩行の際にも右足が遊脚相のときに、ぶん回し歩行に近い軌道を辿ります。
人間の足は、意図せずに足を前に出すとつま先の方向に出る構造になっていますので。
(だから柔道では、小内刈という技の場合は相手のつま先の方向に刈れと言われます)
股関節の動きだけにフォーカスすると、深層六外旋筋や臀部の外転筋とともに縫工筋を過度に使う結果となるはずです。
次に、右足を上で足を組んで長時間座っているときを考えます。
これも面倒なのと、症例を検討するブログではないので股関節だけにフォーカスします。
股関節外旋位ということは、内旋筋である小臀筋、大腿筋膜張筋には牽引力がかかり続けます。
外旋六筋の支配神経は仙骨神経叢からの分枝で、筋肉によって違いますが主にL4〜S2くらいまでの範囲が支配神経。
縫工筋は大腿神経(L2、3)、小臀筋は上殿神経(L4〜S1)、大腿筋膜張筋は上殿神経(L4、5)が支配神経と言われています。
このあたりも踏まえながら・・・
この症例だけで考えていくと、歩行時は左足と比較して右足の縫工筋は明らかにオーバーユース的な状況になりますよね。顕微鏡レベルに近いのかもしれませんが、損傷しているかしていないかという点では、軽微な損傷が繰り返されている可能性があります。
内旋筋に関しては、デスクワークをしている数時間、ずっとストレッチされている状況なわけです。
筋緊張は高まって当たり前ですし、それによって出る感覚を「痛み」と捉えることも十分ありえます。
そしてこれらのシチュエーションは、組織損傷が起こった時だけでなく、「あるいは組織損傷が起こりそうな時」でもあるので、脳による勘違いでもなんでもなく、事実として痛みが出るわけです。
となると、痛みの原因となっている筋肉は確かに存在するわけですし、認知行動療法をして、自然回復を待つよりも、ちゃんと治療してあげたほうが、よほど早期に症状を改善させることができますし、扁桃体の暴走も防げるわけです。
※「なんや松村、大したことないな!この場合の症状なら本当は〇〇が悪いんや!」は無しにしてください。手技的なことや治療理論がテーマではないのでかなり大雑把に書いておりますのでご理解くださいね。
私の経験だけでなく、ベテランの先生の経験を踏まえても、本当に全く何も原因が存在せずに痛みだけ出ているほうが症例数は少ないのです。そしてこれは、先に紹介させていただいた論文の結果にも合致します。
ただ、「原因がある痛み」ではあるけれど、その痛みを「その痛みのレベルのまま感じる人」もいれば、「脳で増幅させてしまう人」もいます。
例えば10の痛みが7になった時に、「3マシになりました」と言える人は早く回復しますが、「まだ7痛い」という人の回復は前者と比較すると遅いです。
このあたりには脳が関連していると思いますが、それを
「あなたの脳が痛みを増幅させてるから、考え方変えなさい!」
なんて言ってもダメですよね。
簡単なことで、
「10のうち、どれくらいマシになりましたか?」
と質問すればいいだけの話。
心理学的な難しいことをうんちゃら御託を並べなくともできることです。
まずは技術を磨き、知識を高めろ!
私が危惧するのは、「痛み→脳」の論理が出回りすぎた結果、自身の技術、知識レベルが低いことで治せない症状やわからない症状を全て脳の責任にし、技術、知識の向上をしなくなるという未熟で経験の浅い治療家が増えるのではないかということ。
最近「痛み→脳」を吹聴している人の中に、
「患者さんに凄いと言われたくて技術勉強して・・・・そんなの患者は求めてない!」
みたいな論調の方も見かけます。
そして、
「患者さんを不安にさせてるのはあなただ!」
みたいな結論付けしてます。
いやいや、待て待て。
もしかして、治療できないコンプレックスが「痛み→脳」理論がトリガーになって一気に噴出して、治療の勉強をしている治療家を攻撃しているのかな、とさえ思えてきます。
私もずっと手技の勉強会に参加してますが、自分を凄いと思わせたいから治療を学ぶという先生なんてほぼいませんよ。
みんな、治らない患者さんがいるから悩んで、それで勉強するんですよ。
もちろん、中にはそういう他者承認欲求をこじらせた先生もいますが、そういう先生の院は間違いなく流行っていないので問題ではありません。
批判覚悟で書きましょう!
「てめえの勉強不足をあげつらって、ふざけたことをぬかすな」
という話なんですよ。
イエローフラッグは存在します。
ストレスが原因で痛みが増幅することもあります。
「痛み→脳」の全てを否定する気など毛頭ありません。
ただ、たくさんの患者さんを診させていただいていると、イエローフラッグ的なものなのか、それともやはり原因が存在するものなのかは問診で見抜けるようになってきます。
そのために必要なのは、技術、知識、経験、コミュニケーション能力なのです。
心理学的なことを学ぶのは大いに結構。
しかし、先に技術と知識を高めることを、特に未熟な治療家は大切なことだと思うのです。
治療に「1+1=2」のような答えはない
明らかな画像所見の異常があり、何かしらの介入を行い、それによって改善したという証明ができること以外にエビデンスを高めることは非常に難しいことです。
五十肩だろうが、坐骨神経痛だろうが、肩こりだろうがなんだろうが、その原因は患者さんによって違います。
例え同じ筋肉、筋膜、靱帯などが原因でも、生活習慣や癖でも少しずつ変わってきます。
そして、脳が原因のこともあります。
ということは、
「五十肩の治療法はこれ」
「坐骨神経痛の治療法はこれ」
「肩こりの治療法はこれ」
などという、唯一無二的な答えなど存在しないのです。
ということは、やはり
「損傷モデル以外の痛みの原因は脳」
というのも唯一無二ではないのです。
患者さんは何を求めているのか?
「痛み→脳」で認知行動療法を提供するのは、整形外科医が原因ないのに痛いって言ってるから、精神安定剤処方しようとするのと何ら変わりません。
副作用はない分マシですけど、心理学からアプローチするよりも、絶対に早く改善できる症状がたくさんあります。
実際、腰痛で来られた患者さんの中に、精神安定剤を処方されたとブリブリ怒ってうちに受診された方もおられます。(実際にイエローフラッグではありませんでした)
まあ、医師のコミュニケーション能力の低さゆえに怒ったという経緯もありますが。
人が行動するのは、感情が動くから。
痛みから回避するのは、行動の動機の中でもかなり強いものです。
では、なぜ痛みから回避したいのか?
もちろん不快だから、不快から解放されたい、というのは大前提であります。
ただ、痛みを感じることでどんな感情になるのかは人によって違います。
そのあたりが、患者さんが求めるものです。
大雑把に言えば、患者さんは安心したい。
そのために、治療を提供すべきなのか、それとも心理学的なアプローチがいいのかを我々は選択すべき、いや、正しく判断して提供できるレベルでいるべきだと思うのです。
まとめ
さて、長くなってしまいましたが、最近感じていた違和感をそのままぶつけた文章を書かせていただきました。
賛否両論であることは重々承知しています。
そして、なんでもかんでも「痛み→脳」と信じてしまっている方々からすると、私のことは「認知が歪んでいる」という、歪んだ認知を起こす可能性高いよな、とも思います。
ただ、今回はそれでも書きたかったことです。
本当に患者さんのためにならないから。
私の場合は20年以上、長期的に休むこともなく、現場を抜けることもなく、ずっとずっとずっとずっと患者さんと向き合ってきました。それが保険だろうが自費だろうが。
毎日毎日、来る日も来る日も患者さんを触っています。
治療って、道です。
技術だけで通用しちゃう時期があり、それである程度評判が出てしまうことで解剖学的知識がないと通用しないレベルの症状に遭遇することで勉強をする。今度は今持っている技術だけで対応できない症状に遭遇し、また悩み、技術の勉強をする。するとまた知識を高めないといけない段階が来て、また違う技術を・・・
という道だと思うのです。
その中に、「痛み→脳」理論は確かに存在します。
私も道半ばですが、「痛み→脳」論者の中で「痛み→脳」をその道のゴールにしてしまっている人はいませんか?
まだ先がある、というか、違う道があるというか。
ゴールではないことは確かなのです。
業界みんなで、向上していければいいですね。
※「痛み→脳」論者の方々へ
まあ途中でかなり不快になっているでしょうから、最後まではお読みになっていないかもしれませんね。
もしかしたら、イライラするのを我慢して読んで、ストレスで腰痛になってしまったかもしれませんね。
目次から飛んでこられる場合もあるので書いておきます。
文中、何度も書いておりますが、その理論自体は間違いではないと思います。
そういう患者さんは間違いなく存在します。
私自身も、認知行動療法的なアプローチもします。
しかし、臨床を重ねていくと、絶対にそれだけではないことはわかってきます。
私のことを「認知が歪んでいる」で片付けるのは簡単です。
ぜひ、「痛み→脳」フィルターを外して患者さんと向き合ってみるといいのではと思います。
(もちろん、過度に不安を与えるようなことをするのは理論云々以前に人としてダメですが)